OMORI 考察、解説などメモ置き場

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オモリとは何か?スケッチブックから予想するブラックスペースの由来

※この記事は研究中の事柄をまとめたものです。また各要素の背景について、善悪を問わないようにしています。オモリを考察するにあたり想像の及ばない部分、未知の部分が多く、ゲーム外の知識を参考にしています。参考にしたサイトリンクと動画を記事の下に貼っておきました。

この記事では

  • オモリとはどういう存在なのか
  • ホワイトスペースとブラックスペースについて
  • サニーが夢の世界にとらわれる理由

この3つの考察を中心に書いていきたいと思います。

以前の記事で、オモリはサニーから分かれたもう1つの人格だと書きました。

(わかりづらい部分が多々あった為、内容を修正してあります)

 それではオモリとは一体どんな人格なのでしょう?何かの象徴?罪の意識?現実逃避の意識?彼が何なのかは非常に掴みづらい部分でした。

ブラックスぺースでサニーの自殺願望が確認できること、自殺を選択する場面があることから、自殺願望を持つ自我でしょうか?しかし必ず自殺するというわけでもありません。死を目的に行動しているにしては、サニーを助ける行動をすることもあります。サニーの中の悪の心を表しているのでしょうか?たしかにスキルを見るとろくなものがありません。しかしオモリが悪事ばかり働くというわけでもありません。オモリの代わりにサニーがとてつもない善人になったわけでもありません。各所で邪悪な姿とは言われますが、とても強く、夢見人を守れる存在としても説明されます。

しかし冷酷な存在ではあるかもしれません。オモリは誰にタッチされても冷淡な態度でした。シンエン井戸やブラックスペースで、夢の世界の友人達にも魂が存在することが示唆されていました。だとすると、ブラックスペースで死んでいったバジル達にも魂があったことになります。以前の記事に書きましたが、彼らは都合の悪い記憶を持って生まれたバジル達だったのだと思います。それらをオモリは躊躇なく処分していき、自ら刺殺することすらありました。オモリルートでは夢の世界にバジルが帰ってきますが、彼にたどり着くまでに多くの犠牲を強いたことになります。

ホワイトスペース誕生から名前を変えるまで

ホワイトスペースとは?
omori あしながおじさん

 最初はこの世界に夢見人と単調な部屋、つまりホワイトスペースしか存在しなかったようです。その後その部屋に飽きた夢見人は、様々な世界に繋がる扉を作ったとあります。ホワイトスペースとはトラウマが生じた際に、自分自身を完全に隔離できる、一部の人々の能力に基づいたアイディアである、と読んだことがあります。見たところではほとんど何もない、何も起こらない世界です。枝サンゴはホワイトスペースとは虚無であると説明していました。

ゲーム内でこれらを説明する部分があるとすれば、このセリフではないでしょうか。スペースボーイが真っ白な世界で氷になろうとする姿は、ホワイトスペースで無になる理由を表していたように感じます。断定はできませんが、感情が麻痺するという表現は解離現象*1に似ていると思いました。強い心的衝撃を受けたことをきっかけに、あらゆる感覚が自己から切り離されるという状態。体験者や専門家によって表現は違うようですが、解離の1つに意識全体が真っ白になるという症状があるようです。

圧倒的なトラウマ

 サニーの抱えるトラウマは大きなものです。大きさを推し測るのは不可能かもしれませんが、対比するとしたらマリのトラウマでしょうか。サニーが湖で溺れた時、マリは湖の中にいた兄弟より素早く反応し、サニーを救い出したとありました。そしてサニーが目を開くと同時にマリは崩れ落ち、サニーにすがりついて号泣していたと。オーブリーはそんなマリの姿は初めてみたと語っていました。以降マリはもう湖に行きたくないと言い、それがこのたまり場を使わなくなった理由となりました。湖の体験は、マリにとって大きな心的衝撃だったのだと思います。弟が居なくなってしまうかもしれなかった、彼女はそう感じていたのではないでしょうか。近しい人の事故を目の当たりにするだけでも、人はショックを受けるものです。

彼の場合は自らの手で、その過ちにより命を奪いました。おそらく内部データにあるという黒いアルバムの文章の通り、この時点でホワイトスペースは生まれようとしていたのだと思います。12歳の子供がすぐに受け入れるには、重い現実だったはずです。そして事件はそれで終わりませんでした。その後起きたことは彼に人間関係の破綻を確信させ、より深い絶望を与えるのに十分だったと思います。

名前を変えた夢見人

(セリフが長いため、kanpeenさんより動画をお借りしました) 

 最初はサニーとして、様々な世界を旅していたように読み取れます。しかし旅路の果てに、恐らくブラックスぺースにたどり着いた。ウソと秘密、真実をささやく暗闇の世界。

それを封じるため別々に存在していた世界を統合し、暗闇を隠した。それでも暗闇は消えることなく夢見人を追いつめていった。真実から逃げるためにサニーは名前を変え、自分を忘れることを選んだ。そしてそれが唯一、正気を保つ方法だった。およそ読み取れるのはそんなところでしょうか。

つまりオモリとは逃避のために生まれた名前である、と捉えることができると思います。受け入れがたい真実、解決不可能と思える人間関係の問題、罪悪感、そこから生まれる葛藤。12才の子供が正気を失うのには十分です。その記憶、意識すべてを捨て去ろうとする行為。それが新しい自分「オモリ」を名乗る始まりだったのではないでしょうか。そして各所(ストレンジャー、マリ、シンエン井戸等)で言及される、逃げ続けてきたという言葉の意味ではないでしょうか。

自殺願望についても、自分を守ろうとする反応だとする考え方があります。どうにもならないところまで心に傷を受けた人が、自分を守ろうとする最後の手段、究極的な逃避。実際自殺エンディングに対する感想に、

これ以上苦しまずにすむ、苦しみから逃れることができる

といった内容を見た事はないでしょうか。死に救いを求めるという発想は、意外にも多かったと感じます。

オモリとは?

オモリのモデル

 これらの事から考えるに、もう1つの人格は解離性同一症がモデルとなっているのではないでしょうか。実在する病名のため、詳細はリンク先の参照をお願いします。

精神的苦痛により記憶を失う、そして苦痛に関する記憶や意識を引き継ぐもう1つの自我。これはサニーとオモリに当てはまるように思えます。また解離によって記憶を失ったとしても、トラウマに関わる場所を無意識に避ける、行けなくなるといった場合があるようです*2。これはサニーがピアノ室や裏庭に行くことを拒む行動に似ています。ゲーム内においてはあしながおじさんが、自分を忘れることが、正気を蝕まないための唯一の手段だったと言っていました。これらはつまり、子供が持つ心的な防衛反応、あるいはその体験がモデルとなったのではないでしょうか。

解離現象についてはケルの記憶にもみられると思います。ヒロは大声で叫び、ケルはそれが自分を傷つける言葉だと認識していました。しかし不思議なことに、ケルの耳に言葉は届いていませんでした。あるいはその記憶を失ったのでしょうか。尊敬するヒロの豹変と自分への攻撃、ケルにとって予想もしない大きな衝撃だったはずです。彼もまた「自分」を守るため、受け入れがたい情報を意識から切り離したのではないでしょうか。そしてそれは心を守るために、子供が持っている防衛反応なのだと思います。

心の居場所

 これもゲーム内で明示される要素ではありませんが、誰であっても、心の居場所となるものが必要だと思います。つまり自分の存在を感じられる場所、自分が必要とされていると感じる場所、支えてくれる存在です。居場所と表現されますが、実体の無い概念にも当てはまるものです。サニーにとっては、6人の関係の中に心の居場所があったと思います。そしてもちろん家族の中にも。

しかし彼の人間関係は崩れさりました。心を病んだ影響で友達とは会えなくなり、家庭は崩壊。サニーは母親だけが残った家で、引きこもり続けました。

現実世界で家庭や友人関係に居場所を失った、あるいは失ったと感じた彼らはどうなったでしょう。友人がバラバラになり、家に心の居場所を感じなくなった瞬間、彼らは追い詰められていきました。

ヘッドスペースとは、サニーにとって新しい心の拠り所となったのだと思います。受け入れがたい苦痛から目を背け、かつての心の居場所を感じさせてくれる世界。自分を必要としてくれる友人達の居る場所。もちろんずっとこんな場所を頼れば、本当に自分が大切にしていたものは失われていきます。しかし状況が悪くなればなるほど、ますますこの世界を頼ってしまうのかもしれません。不健全な依存のような関係。本来ならどこにも逃げる所などなかったはずです。追い詰められた彼に居場所を与えたのが、ヘッドスペース、そしてオモリという新しい自分だったのだと思います。

頼り過ぎてはいけない存在たち

サニーのこの状態を対比することは難しいかもしれませんが・・。

もし比べるとしたらオーブリーの母親でしょうか。彼女がなぜ、いつからこのような状態になったかはわかりません。オーブリーが4年前から友達を家に呼ばなかったこと。廃品投棄場のゴミを非常に嫌がる様子から、父親が離れる以前から、このような環境だったのではないかと思います(英語版の"her father left"という表現から、死別ではないと解釈しました)。ゴミの種類にビンや缶が異様に多いことから、アルコール依存症を表しているものだと思います。

アルコールは精神的苦痛を和らげたいとき、強く頼られることがあります。ひとときだけ現実を忘れ、重圧から逃れる手段としてです。あるいは大きな問題が頭から離れず眠れない時、それを鎮めるために使う場合もあるといいます。

しかし頼り過ぎてしまうと問題です。度が過ぎれば状況を悪くすることになりかねません。犠牲が生まれるとそれがまた精神を追い詰め、アルコールを頼る願望が大きくなる、そういった悪循環が存在するそうです。最初は頼れる存在だったアルコールが、自分をコントロールする主人となっていく。手段だったものから目的になっていく。自分を支配され、それに振り回されてしまう。そうなると自分の意思で克服するのは難しいといいます。

精神的苦痛を和らげるために頼るもの、現実を忘れることができる存在。そしていつの間にか自分をコントロールし始め、支配してしまうもの。サニーがオモリの姿を頼ることは、実はそれほど特別な例ではないのかもしれません。しかし本当に頼りたいものに手が届くなら、そんなものは必要なかったわけです。ケルがサニーを外に連れ出した事は、そうした所にも大きな意味があったと思います。

辛い時に支えてくれる、頼れるものがあったかというのは一つの分かれ目です。ヒロであれば家族が、オーブリーであれば新しい友人がそうだったと思います。頼る先がアルコールやそれに類するものになるのは、代用品を求めるからです。

スケッチブックとブラックスペース

 オモリは最終戦以外にセリフがありません、彼の心情はそのセリフ、または行動から読み取るしかないと考えていました。しかし、スケッチブックからもできるのかもしれません。サニーが見ると1ページ目以外、何も描かれていないスケッチブック。オモリにしか見えない、多くの絵が存在しているわけです。つまりそこに描かれているものこそ、彼の心象風景なのではないでしょうか。スケッチブックに描かれた要素のいくつかは、ブラックスペースにあるものでもあります。ステーキ、不気味なケーキ、顔が潰れたオーブリー、黒猫の執事、ナイフで刺される黒猫、縮尺が似たベッド。そして真実を隠していた黒い電球の絵。またいくつかの絵は幼い子供の描くような絵*3になっており、ブラックスペースにもそういった世界がありました。つまりブラックスペースとはオモリの心が生み出した世界、彼が作り出す1種のヘッドスペースなのではないでしょうか。作中でヘッドスペースは人によって見え方の違う世界、想像力によって広さと色彩が変わる世界だと説明されていました。

オモリ 枝サンゴ

そして、絶望によって深く広がっていく世界とも。

つまりこういうことではないでしょうか?

サニーは「自分」を守るため、自身から記憶や意識、苦痛を全て引き離した。しかしそれを代わりに引き受ける自我が形成され始めてしまう。子供が心を守るため、防衛反応を繰り返すことにより生まれる存在。そしてブラックスペースとは全てを引き受けた自我が見る世界。虚無と呼ばれる、感覚を遮断されたホワイトスペースとは逆の世界。だから黒い世界。サニーが捨てた耐え難い葛藤や感情、それを受け持つ自我だからこそ見る混沌の世界。

しかしこの方法を持ってしても、真実を完全に忘れる事はできなかったのではないでしょうか。統合したヘッドスペースで闇を覆っても、ブラックスペースの入口は何度も現れてきました。そしてホワイトスペースという虚無でも、ブラックスペースの入口は生まれていました。この時に枝サンゴがわずかに言及した黒い電球、それこそが真実への入口を隠すものでした。サニーが感情を押さえつけそれを別な自我に押し込めても、やがてそれはあふれ出てくる。良心の呵責はやってくる。

そしてオモリとはサニーを守る役目を持って生まれた自我であり、サニーが苦痛に蝕まれると彼は現れるのだと思います。「自分」を苦しみから逃がすために。

ストレンジャーは真実はここにあり、今度は一緒に立ち向かえると話し、夢の世界のバジルに向かっていきました。しかし次の部屋に行くとすぐさま赤い手が現れ、バジルは連れ去られ息絶えました。これはつまりオモリよって、サニーが真実に触れることを阻止されたのではないでしょうか。オモリルートでは逆に、ストレンジャーが真実から逃げることを阻止しようとしてきます。しかしサニーが苦痛を受け続けるとオモリが現れ、自我が入れ替わったように見えました。

これはスケッチブックに描き表された現象なのかもしれません。左の絵にある黒い手は、恐怖を感じる時に見える黒い手にそっくりです。黒い手を遮るように置かれた壁はヘッドスペースなのでしょうか。そして中央から伸びる赤い手が、隙間から伸びる黒い手を阻んでいるように見えます。赤い手は恐怖が、あるいは真実が中央の人物に触れないようにしているのではないでしょうか。そしてその解釈をする場合、赤い手の玉座に座るものこそが、その主と読み取れると思います。つまりオモリの行動原理、存在の意味を表してるのではないでしょうか。

立ちはだかる自我、オモリ

 しかしサニーが真実に立ち向かおうとしたとした時、オモリは立ちはだかります。サニーはその時、今まで自分を守ってきた強力な自我と戦うことになりました。恐らくオモリの放つ言葉とはサニーが封じこめてきた意識であり、罪悪感、そして絶望を含むものです。オモリと戦うということは、目を背けてきたものと向き合うということなのだと思います。隠してきた絶望を克服しなければ、前に進むことはできないでしょう。

友人達に真実を告白しようとするサニーに対し、オモリはこのような言葉を投げかけてきます。この言葉は、もし許されるものであるなら自分を許してほしい、という願いが根底にあるように見えます。分かれた人格を統合するということは、それぞれの意思を統一するということです。人格が分かれる必要はないのだということを、双方が納得しなくてならないはずです。

ゆえにバックステージに現れた彼らの言葉が、自分達を信じてほしい、サニーを信じているというものだったのではないでしょうか。

オモリの言葉はサニーの心を削っていきます。サニーは友人達の言葉を思い返し、そのたびに強くなり戦い続けました。しかしどれほど強くなってもオモリは屈しませんでした。それも当然かもしれません。彼は大きな苦痛を、サニーに代わり引き受け続けてきたのですから。この人格が今までしてきたことを考えれば、力で打ち勝つなど到底叶わないことなのかもしれません。

結局、おそらくは圧倒的な罪悪感の前に敗れたのではないでしょうか。次第に落ち着くことはできなくなり、友人達の言葉が思い出せなくなります。オモリの背後にはヘルマリの顔が浮かび上がり、マリの憎しみを想起させてきます。吊り下げられた友人達の影まで現れると、ほとんど正気を保てなくなりました。

しかしグッドエンディングではオモリは消えました。もちろん罪悪感や悲しみが消えたとというわけではないでしょう。それを引き受け、感じることを抑えていたもう1つの自我が消えた。だから彼は感情を取り戻し、涙を流したのではないでしょうか。彼は自分の心で、それを受けいれられるようになったのだと思います。

もしそうだとするなら、オモリはどうして消えたのでしょう?何が彼を納得させたのでしょう。

1つはサニー自身が諦めずに、立ち向かう事を選んだからだと思います。サニーの意思が絶望に屈せず、友人達を思い返しもう1度進むことを決意したこと。

実際彼がこの日思い返してきたのは、ずっと友人達との思い出だったはずです。

そしてもう一つオモリが絶望を捨てる理由があるとするなら、それはマリだっただろうと思います。スケッチブック、ブラックスペース、そして最後の戦いで見える背景。見えているのはいつも、あの恐ろしいヘルマリでした。ブラックスペースを徘徊していたのは、深い憎悪を感じさせるヘルマリ達。オモリはマリが自分を許してくれるなど、一かけらも信じてはいなかったように思えます。彼に妄想や虚言が通じるとも思えません。オモリの絶望を和らげ、希望を感じさせることができるとすれば・・それはおそらく・・。

 

 

参考資料

記事作成時に参照したサイト、動画などです

  • 解離症と解離性健忘について

  • インタビューとされる記事

ホワイトスペースのモデル、ゲームの開発などについて

  • スケッチブック考察についてはこちらを参考にしました

*1:記事下のリンク先を参照

*2:記事下のリンク先を参照

*3:参考動画、記事下